今日読み終えた本

オフィサー・ダウン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

オフィサー・ダウン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書は、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」
・通称エドガー賞の’06年度最優秀新人賞受賞作である。
サマンサ・マックは32才。シカゴ市警23分署の独身女性巡査である。愛称はサム、
またはスマック。ある夜、不倫相手の同僚メイスンの電話を待っていると、上司から
病欠の警官の代わりに夜間パトロールの要請がはいる。パートナーは、元カレのフレッドだった。フレッドは情報屋のタレコミを元に性犯罪者逮捕に向かう。そして潜伏先と
見られる暗闇の家で、銃撃戦の末、サマンサは頭を殴られ、気を失う。意識が戻ると、自分の銃から発射された弾丸でフレッドが死亡していた。警察側はサマンサの誤射として処理したがるが、彼女は現場にくだんの性犯罪者がいたと主張して譲らない。
かくして、謹慎に近い休職中、しかも頭に何針か縫った傷を負いながら、サマンサは自ら真相究明に乗り出す。頼りとするのは不倫相手のメイスン刑事だけだが、彼の捜査も態度も、どうも煮え切らない。そこに内部調査部の刑事オコナーがサマンサの協力を求めて現れ、事態は一層複雑な様相を呈し始める。彼らは本当に味方なのだろうか。やがて驚くべき事実が判明し、サマンサ自身も轢き逃げの容疑で逮捕されてしまう。
本書は、右に左に揺れ動き、最後の最後まで真っ暗な、ぐらぐらの舞台で思い惑う
サマンサを、彼女の一人称叙述で描くことによって、生理的、心理的な臨場感が効果的にあらわれ、冴えわたっている。影を背負いつつ勇敢に正直に苦難と対峙するサマンサの姿が、本書を栄えある賞に導いたのだろう。