今日読み終えた本

市民ヴィンス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

市民ヴィンス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書は、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」
・通称エドガー賞の’06年度最優秀長編賞受賞作である。
アメリカ西海岸最北のワシントン州、その内陸部の地方都市スポーケンに住むしがないドーナツ屋の雇われ店長、ヴィンス・キャムデン、36才。物語は彼の1980年10月28日から11月4日までの8日間を追っている。
実は彼は、「証人保護プログラム」システムで、マフィアに不利な証言をした見返りに、4年前に過去と決別し、全くの別人となってこの街にやって来たのだ。彼は真っ当な暮らしを望みながらも、裏稼業のカード偽造と麻薬の密売をやめられずにいた。それらで稼いだ金でいつか自分の店を持ちたいと思っている。そんなある日、殺し屋が現れ、ヴィンスの裏稼業の協力者を殺し、さらにヴィンスにまでその魔手を伸ばし始めたのだ。ヴィンスは、自分の忌まわしい過去との関係を疑い、戻るつもりが無かったニューヨークへ赴き、4年前に起こしたことを清算しようとする。
本書は、ヴィンス・キャムデンがマーティ・ヘイガンから生まれ変わろうともがき、ヴィンス・キャムデンとしてのアイデンティティーを得ようとする物語である。その象徴が、
初めて手にしたヴィンス・キャムデン名義の「有権者登録カード」によって大統領選挙に1票を投じることとして描かれている。
全編にわたり、特徴のある魅力的なキャラクターたちが登場し、文章はすべて三人称
・現在形の切り詰めたセンテンスで書かれており、スピーディーかつストレートに胸に
染み入る物語である。