今日読み終えた本

トランク・ミュージック〈上〉 (扶桑社ミステリー)

トランク・ミュージック〈上〉 (扶桑社ミステリー)

トランク・ミュージック〈下〉 (扶桑社ミステリー)

トランク・ミュージック〈下〉 (扶桑社ミステリー)

現在、11作目まで上梓され、その10作目までが邦訳されている、マイクル・コナリーの<ハリー・ボッシュ・サーガ>シリーズ第5弾。“当代最高のハードボイルド”、“現代ハードボイルドの到達点”といわれるだけあって、また本書は、ノン・シリーズの傑作『ザ・ポエット』と『わが心臓の痛み』の間に挟まれて発表されていることから、時期的に見ても充実期にあり、エンターテインメントとして完成されている。
’98年、「このミステリーがすごい!」海外編第20位。
屋外コンサートホール≪ハリウッド・ボウル≫を真下に望む崖上の空き地に停められたロールスロイスのトランクから、映画プロデューサーの射殺体が発見された。それは‘トランク・ミュージック’と呼ばれるマフィアの手口であることが分かる。やがて彼は、
ラスヴェガスの犯罪組織の金をマネーロンダリング資金洗浄)しており、そのトラブルで殺害されたのではないかと推測される。容疑者は、犯罪組織が経営するストリップ劇場の用心棒で、被害者の上着に指紋を残していた。凶器の銃も見つかり、ボッシュは彼をロサンジェルスに連れてくる。
しかし、下巻に入り、誰もが思いもよらない大転回があり、ボッシュの前にロス市警の組織犯罪捜査課や内部監査課が障害として立ちふさがる。状況は二転三転するが、事件は悲劇的な終結を見る。
訳者・古沢嘉通によれば、このシリーズのなかで本書は、一連の<ボッシュ・サーガ>のなかで「幸せなボッシュ」を描いて一時的に主人公およびシリーズに救済を与え、
一種の幕間の役割を果たしている作品と位置づけている。なるほど本書でボッシュは、初めて「自分と個人的に関係のない」事件を担当し、最愛の女性と再会し、有能な同僚たち、前任者と異なる理解ある上司に恵まれており、存分に捜査に集中している。ラストもほほえましい。