今日読み終えた本

審判 (文春文庫)

審判 (文春文庫)

本書は、オレゴン州ポートランドを舞台に、弁護士ジョーゼフ・アントネッリを主人公
としたリーガル・サスペンス三部作の第3作である。D・W・バッファは、自身も弁護士
として活躍した経歴を持ち、デビュー作の『弁護』、それに続く『訴追』、そして本書と、
自らの経験を生かした、臨場感あふれる法廷ドラマを発表している。
首席判事とその後任が同様の手口で殺される。どちらも外部通報でホームレスが
逮捕される。はじめの殺人犯は逮捕の夜に拘置所内で自殺してしまう。
では次の殺人犯はその摸倣犯か。腑に落ちないものを覚えたアントネッリは、第二の殺人犯の弁護を引き受けるのだが、そこにはアントネッリ自身も巻き込まれた、10年以上前の事件が絡んでいた。
文庫で539ページの大作だが、前半は第一の事件の被害者であるジェフリーズ判事の、法廷での専制君主のような態度や、アントネッリが駆け出しの頃に受けた厳しい
仕打ちや、後輩弁護士エリオットに関わるエピソードなどが、読み手によっては冗長に思えるほど、たんねんに描かれる。
後半は、第二の殺人事件の公判を中心に据えた展開だが、ここでもD・W・バッファは手を抜くことなく法廷での証人と弁護人、検察官とのやりとりを几帳面に描いている。
本書は、謎の複雑さ、アントネッリの探偵ばりの活躍、ロマンスと、読みどころもたくさんあるが、私は、D・W・バッファという作家の、ひとつの作品をていねいに書きとおす、
その真摯な創作スタイルに感心した。