今日読み終えた本

ブラック・ウォーター (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ブラック・ウォーター (ハヤカワ・ノヴェルズ)

T・ジェファーソン・パーカーは、’02年度『サイレント・ジョー』と、’05年度『カリフォルニア・ガール』で、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」・通称エドガー賞のベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)を2度も受賞している。
パーカーはその間にふたつ作品を発表しているが、本書はそのうちの1作である。
また本書は、『サイレント・ジョー』に先立って書かれた『ブルー・アワー』、『レッド・ライト』に次ぐ、オレンジ郡の保安官事務所に所属する女性捜査官、マーシ・レイボーンを主人公に据えた、パーカー初のシリーズものの3作目でもある。
マーシの同僚の保安官補アーチーが、自宅で意識不明の重傷を負い、妻のグウェンは銃で撃たれた死体となって発見される。殺人か、無理心中か・・・。彼ら夫婦は
分不相応の邸宅に住み、収入以上の贅沢な暮らしをしていた。状況証拠はアーチーに不利なものだったが、マーシは彼の無実を信じる。しかし決定的な証拠をつかめないでいるうちに、意識を回復したアーチーが、自らの手で犯人を探し出すために勝手に病院を退院して、姿をくらましてしまう。やがて、事件の陰に隠れた大きな闇が明らかになるのだが・・・。
本書は『サイレント・ジョー』や『カリフォルニア・ガール』に比べると、シリーズものだけに、少しライトな感じがするのは否めないが、精緻な描写、みごとな人物造形、入念なプロットは健在である。読者は、決して派手さはないが、深く静かに胸に迫るという点で、上記2作と同質の、パーカーならではの名人芸を堪能することができる。
ただ惜しむらくは、シリーズものだけに、本書単独では理解しきれない部分もあり、
文庫化されている先立つ2作品、少なくとも『レッド・ライト』は先に読んでおいたほうがよさそうである。