今日読み終えた本

鉄の枷 (創元推理文庫)

鉄の枷 (創元推理文庫)

本書は、英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」の’94年度、ゴールド・ダガー(最優秀長編賞)受賞作である。また日本では’97年、「このミステリーがすごい!」海外編で第4位にランクインしている。デビュー以来、CWA、MWA、「このミス」の常連として大活躍のミステリーの新女王ミネット・ウォルターズの第三長編である。
物語はある資産家の老婦人の死で始まる。彼女は睡眠薬を飲んだ上で手首を切り、浴槽の中に裸で横たわっていた。頭にはスコウルズ・ブライドル(本書の原題になっている)という中世の拘束具の一種である鉄製の轡をかぶっていた。やがて、この老婦人は、最近遺言を修正し、遺産を親族ではなく、自分の主治医に遺すように書き換えていたことがわかる。自殺なのか、それとも他殺なのか・・・。これがすべての謎の始まりだった。
これらの“なぜ”をめぐって展開する物語は、一見、“古典的英国風謎解き”だが、そこはウォルターズのこと、現代的な味付けに怠りはない。その代表が、老婦人の主治医セアラであろう。彼女は現代的な、自立した知性のある女性なのだが、決して完璧な
ヒロインではなく、むしろ悩み多き人間だ。そこからの脱却と、物事に立ち向かう姿勢が実に前向きでユーモラスに描かれている。
本書で読者は、本格ミステリーでもサスペンスでもなく、新古典とでもいうべきまさに
ウォルターズ・ワールドを堪能するのである。