今日読み終えた本

wakaba-mark2008-01-14

傷

深谷忠記は、いつもはシリーズキャラクターが活躍するトラベルミステリーと、本書の
ような社会派的な本格ノン・シリーズとを交互に書いているが’07年は本書が唯一
発表された長編となった。
主な事件は大学教授の「強姦未遂事件」と若い男女の「放火殺人事件」である。ストーリーは、それぞれの関係者の行動と放火事件を捜査する刑事の視点で進行する。
やがて双方の視点が交錯してきて、ふたつの事件の繋がりが見えてくるのだが、いろんな事情が複雑に絡み合って、なかなか一筋縄では終わらない。とにかく、ミスディレクションと、どんでん返しに次ぐどんでん返しの連続で、読者に「そうではないか」と
思わせておいて、次はまったく別の展開をみせる。そして・・・あらたな殺人事件が発生するに及んで「どう落ち着くのだろう」と読んでいて迷ってしまう。やっと、第7章の「鮮やかな終曲」でやや真相が見え、第8章(終章)の「アンコール」で、最後まで謎だった陰の真犯人の意図と罪が明らかになるのである。これだけ複雑な構図を持っていながら、いわゆる大作ではなく、一気に読み切ってしまえる長さに収められているのも
いい。さすがはミステリーの手練れの手にかかった作品であるといえよう。