今日読み終えた本

沈黙の森 (講談社文庫)

沈黙の森 (講談社文庫)

本書は、’01年に本国で発表されるや、その年度の主だったミステリー新人賞の四冠に輝き、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞にもノミネートされた作品である。
ジョー・ピケットは、野生生物を保護・管理する新米のワイオミング州猟区管理官
である。就職面接の日を勘違いしてすっぽかしたり、許可証なしで釣りをしていた男を新知事とは知らず検挙したり、密猟者に違反切符を切っている最中に自分の拳銃を
奪われたりと、物語の冒頭ではかなり不器用な人物として描かれる。
ストーリーはある日、ジョーが娘と自宅の裏庭で、死体を見つけたところから動き始める。次いでキャンプ場にもふたりの死体と犯人と目される人物がいた。犯人は撃たれて、重体となり、事件は解決したかに見えたが、腑に落ちないジョーは、ひとりで調査を続けるのだった。そして・・・事件の背景に絶滅したとされている動物をめぐるある
企業の思惑と、殺人の思いがけない動機、真犯人を知るに至るのである。ここに来て、“仕事”と“家族”を純粋に愛するジョーは、それらが危機に晒され、自分の信念に泥を塗られる事態となり、強く堂々たる主人公へと変貌してゆく。邪悪な陰謀と無能な官僚組織を相手に、四面楚歌の状況から敢然と立ち上がるのだ。
都会の物語とはまったく違う、アメリカ西部・ワイオミングの大自然の見事な描写を
背景に、何より大切な家族のために、真犯人に対しても躊躇なく銃を放つジョーの姿
には胸を打たれる。