今日読み終えた本

悪人

悪人

’07年、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第8位、「このミステリーがすごい!」国内編第17位にランクインした芥川賞作家・吉田修一の問題作。
2002年1月6日、長崎市郊外に住む若い土木作業員の清水祐一が、福岡市内に
暮らす短大卒21才の保険外交員の石橋佳乃を絞殺し、その死体を遺棄した容疑で長崎県警に逮捕された。この記述からこの小説は始まる。いったいふたりの間に何があったのか、何が問題だったのか。
物語は時間をさかのぼり、鳥瞰的な視点で始まる。被害者と加害者、それぞれの家族や友人、会社の同僚や出会い系サイトとで知り合った男たちや風俗店の女と、さまざまな人物に次々とズームインし、彼らの口を借りてドキュメンタリーのように、重層的に事件の背景が語られ、全体像を立体的に見せてゆく。
不器用で己れの感情すらうまく人に伝えられない男がなぜ殺人を犯す<悪人>になったのか。嘘で糊塗することで己れを繕ってきた女はなぜ殺されなければならなかったのか。さまざまな登場人物の肉声の中に、その答えがあるのだろうか。
私は物語の後半で祐一と一緒に逃避行する馬込光代の姿に素直に感動した。
<幸せ>とは何か。<悪人>とは何か。
本書は、吉田修一が抜群のストーリーテラーぶりを発揮した、読むものの魂を揺さぶる会心作である。