今日読み終えた本

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

今年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞など4部門を受賞した映画『ノーカントリー
の原作である。
’07年、「このミステリーがすごい!」海外編第12位にランクインしている。
時は1980年、舞台はテキサス州南西部。メキシコとの国境付近で、麻薬取引をめぐり殺し合いがあった現場をたまたま通りかかったモスは、240万ドルもの大金を持ち逃げする。そこに一切の人間的な感情から切り離された行動力で、執拗にモスを追う殺し屋シュガーがあらわれる。そしてこの事件に、引退を考えている地元の初老の
保安官ベルが巻き込まれてゆく。
本書の読みどころは、ひとつは、“絶対悪”として描かれる殺し屋シュガーの強烈な
存在感だろう。彼の行動は、事件にかかわった全員を絶望の淵へと追い込んでゆく。
もうひとつは、各章の冒頭での保安官ベルの独白であるが、次第にその調子も、この事件に影響され、哲学的なものになってくる。
とにかく本書からは、「心理描写がほとんどなく、会話に引用符をつけず、コンマを最小限に切り詰めた」マッカーシーの独特の文章から異様に乾いた空気が漂い、もはや
普通のミステリーを超越したものを感じる。