今日読み終えた本

聖(セント)ジェームス病院 (光文社文庫)

聖(セント)ジェームス病院 (光文社文庫)

本書は、久間十義が綿密な取材を基にして書き上げた、若き研修医東翔平を主人公にして医療の現場を描いた小説である。
なるほど、院内外のさまざまな問題が同時進行的に発生して、これだけの長編になったことが充分うかがえる力作である。
メインの問題は、新薬をめぐる医療過誤が訴訟沙汰に発展しそうになる事件だが、
それに院内感染事件が重なって、病院は危機に陥る。これら医療現場のさまざまな
問題に翔平が関係し、巻き込まれ、出身大学の医局、病院の理事長、院長、事務長、指導医らと複雑な関わりを持ちながら、看護師たちとともに解決に四苦八苦する。
また、当該の新薬の認可の問題や、製薬会社の株のインサイダー取引の問題も本書の中で物語の横軸をなしている。
本書は、中堅どころの地域中核病院を舞台に、病院という、一般の人から見たら日常からかけ離れた異界で起こるような出来事を、病院の関係者にしてみれば日常の中で普通に起こりうる出来事としてストレートに描いている。
しかもそれらをあえて問題提起したり、ミステリータッチにしたりせず、翔平の青春小説の趣さえ漂わせながら正面から見つめているところに好感が持てる。