今日読み終えた本

立証責任〈上〉 (文春文庫)

立証責任〈上〉 (文春文庫)

立証責任〈下〉 (文春文庫)

立証責任〈下〉 (文春文庫)

’93年、「このミステリーがすごい!」海外編第2位。
スコット・トゥローの第2作。『推定無罪』の主人公ラスティ・サビッチの弁護をつとめた弁護士サンディ・スターンが本書では前作からのスピンオフの形をとって主役を演じている。
シカゴへの2日間の出張からスターンが帰宅すると妻のクララがガレージの車の中で自殺していた。この、31年間も連れ添った愛妻がなぜ自殺したのか、その謎が本書のメインテーマである。さっぱり理由がわからないスターンは、妻宛の病院からの請求書を手がかりにクララの死の真相を探り始める。
一方でスターンは依頼人である義理の弟が巻き込まれた先物取引の事件に煩わされていた。
物語の表面上は、法廷シーンはないもののリーガル・サスペンスで名をなしたトゥローらしく、大陪審に召喚されてしまったこの弟や検事補、判事らとの法律上の関わりが
進行していくが、妻の死という謎が水面下でずっと残り続けるので、言いようのない
緊迫感が漂う。
本書は、56才という、そろそろ初老期を迎える中年男が陥ったアイデンティティーの
危機と、それによって窮地に立たされた彼が、どう対処し、自信を取り戻していくかを
抑えたタッチで描いている渋い作品である。
そう、本書は三人称叙述ながら、『推定無罪』をうわまわる心理小説であるとともに、
読後にすがすがしい清涼感すら残る、中年男の成長物語なのである。