今日読み終えた本

閉鎖病棟 (新潮文庫)

閉鎖病棟 (新潮文庫)

文庫になって版を重ねるロングセラーであるとともに、最近では大手書店の三省堂がキャンペーンを張り、注目を浴びた山本周五郎賞受賞作である。
本書は、精神科の病院を舞台にした群像ドラマであり、そこで暮らす患者たちの日常を、患者目線で淡々とドキュメンタリータッチで描いている。
歌を詠むチュウさん。それを清書する秀丸さん。外来で通ってくる女子中学生の島崎
さん。耳が聞こえない昭八ちゃん。昭八ちゃんの甥の敬吾くん。
そこには、健常者と何ら変わらない個性のある人びとがいる。しかし、彼らは何らかの理由によって外の世界では生きられない精神病患者なのである。ここにいるだけの
わけが、それぞれにある。
作者は本書で、あえて精神科医であるという自らの専門分野を題材に取り、「閉鎖病棟」を管理化された私たちの社会全体の象徴としてとらえている。物語の後半で起こる殺人事件も含めて、そこで起こるさまざまな出来事は、私たち一般社会の縮図なのである。そうであるがゆえに、読者は共感し、本書からなんとも言いようのない感動をおぼえるのである。