読書記録1

シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)

シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)

’77年、第1回の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位になった作品。
当時は国内・海外の区分けがなかったので本書が正真正銘の年間ベストワンだった
ことになる。また同誌が企画した「20世紀ミステリーベスト30」でも海外部門で堂々
第3位にランクインしている。(ちなみに第1位は『羊たちの沈黙』、第2位は『薔薇の
名前』、そして第4位は『推定無罪』である。)本書はそれほどインパクトのある傑作
である。
時代はベトナム戦争末期。乗客・乗員201名を乗せ、ロサンゼルスからホノルルに
向かうジャンボジェット機が太平洋上でハイジャックされる。
しかし、犯人は機内にいるのではなかった。ジャンボ機の後方からいつでも撃ち落とせるべくつけ狙う最新鋭の戦闘爆撃機に乗っていたのだ。犯人は2千万ドルの金塊を
身代金として要求し、ジャンボ機の機長、地上の管制官、果てはアメリカ政府や軍を
相手どって手に汗握る迫真の攻防を展開する。
その着想からして奇抜であり、実現不可能な犯罪と思われるが、本書では、犯行に
先立つ第1部で、ベトナムに投入された戦闘爆撃機を、ハイジャックに使用するため
盗み出そうとする計画と行動の一部始終が、詳細かつ正確な記述でなされ、物語の
リアリティを生み出している。
本書は、全編にわたって、常識をはるかに上回るスケール、スリル、サスペンスで読者を魅了する、単なるハイジャックものの犯罪小説を超えた、冒険活劇小説の白眉で
ある。そして、その面白さは発表から30余年経った今でも決して色あせることはない。