読書記録9

贖罪の日 (講談社文庫)

贖罪の日 (講談社文庫)

本書は、原題が『THE MISSING(行方不明者)』とある通り、行方不明となった女性たちをめぐって、ボストン市警の女性科学捜査官ダービー・マコーミックが生まれついての異常犯罪者のシリアル・キラーと対決するサスペンスである。
邦題の『贖罪の日』とは、彼女自身が15才の時、何者かに危うく拉致されかけ、そのかわりに居合わせた友人のひとりが殺され、ひとりが誘拐されるという事件を経験しており、23年経った今まさに、16才の女子高生誘拐事件が発生し、同じような状況の
もと、呼び起こされた当時の暗い記憶を教訓に、「その少女だけはなんとしても救い
出したい」という、ダービーの心の叫びをあらわしている。
しかし、今回の犯人は一筋縄ではいかないサイコパスだった。仲間と手を組んで、
ティーンエイジャーの頃から、州から州へ拠点を移しながら連続して女性を誘拐し、
弄んでは殺害していたのだ。犠牲になった女性たちは100人に達するほどである。
しかも、犯人は身代わりに罪を着せるために証拠を捏造するといった狡猾さも
持ち合わせていた。
捜査を進め、犯人を追うダービーだが、予想をうわまわる驚愕の犯人の仲間の正体が明らかになり、23年前の事件と今回の事件には、意外なつながりがあったことが
わかる。
最後は、科学捜査官らしく、微細な物的証拠から彼女は真犯人にたどりつくのだが、
私はジェフリー・ディーヴァーの「リーンカーン・ライム」シリーズのようなもっと専門的な
科学捜査物語を期待していたので少し期待はずれだった。
しかし本書は、男性作家ながら、心に傷を抱え、末期がんの母親を持つダービーの
揺れ動く心情や、被害者の母親たちの娘を思う気持ちなども細やかに描かれており、抒情的な面も併せ持った、読みやすい、スピーディーでドラマチックなエンターテイン
メントである。