読書記録11

悲劇もしくは喜劇

悲劇もしくは喜劇

壮&美緒というシリーズキャラクターが活躍するトラベル・ミステリーとは別に、年に
1作程度のペースで社会派色の強いノン・シリーズの本格ミステリーを発表している
深谷忠記だが、本書は後者にあたる’08年の作品。
タイ料理店で働けると思って来日したリャン・ピアンチョンは、騙されて売春を目的
としたクラブに借金を負わされて送り込まれたのだった。
第一幕ではこのリャンをひいきに店に通うフリーライターの鏑木恭一と彼女に恋をしてしまう大学生石崎文彦が登場する。
すわ、本書は、人身売買・売春を問題とする社会派ミステリーかと思っていると、
第二幕からホステスたちを束ねる元締めのメイ・ウェーチャヤイという女が殺された
事件の裁判が始まる。被告人は石崎文彦で、弁護人は本書の主人公、母ひとり
子ひとりの中年女性弁護士村地佐和子である。そう、本書は法廷ミステリーだったのである。
第二幕、第三幕と法廷場面は続く。供述をくつがえした被告人文彦、思惑通りに証言
してくれないリャン、文彦の父親と後ろ暗い過去を背負い、現在も、謎めき、何かを
企んでいるような鏑木、そして文彦の祖父であり、佐和子の恩人でもある仲根周三
弁護士。弁護人である佐和子は、彼らに翻弄され、裁判は二転三転、どんでん返しの連続に次ぐ連続で、落ち着く先が最後までわからない。
さらに本書は、凝りに凝った構成に加え、多彩な登場人物たち、また「ひきこもり」や
振り込め詐欺」といった今日的な社会問題にも触れたり、親子のちょっとした会話を
ヒントにしたりするなど、読む者を飽きさせない。
終章でやっと真相にたどりつくのだが、物語は最後の最後にもうひとひねりがあった。
最後に笑う“したたかな”人物とは・・・。