読書記録14

深海のYrr 〈上〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)

深海のYrr 〈上〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)

深海のYrr 〈中〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-2)

深海のYrr 〈中〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-2)

深海のYrr 〈下〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-3)

深海のYrr 〈下〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-3)

’08年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第9位、「このミステリーがすごい!」海外編第11位にランクインしたドイツ発海洋系SF&パニック小説。ドイツ語の原書で重さ1.1キロ、1000ページにも及び、翻訳の文庫も上・中・下巻3分冊で合計1644ページにもなる超大作だ。
はじまりはノルウェー沖で見つかった異様な生物の群れだった。やがて海の異変は
世界中へと広がってゆく。クジラの群れが観光船を襲い、ロブスターやカニに寄生した病原体に多くの人々が感染して死に、猛毒を持つクラゲが大量発生して猛威を
ふるい、原因不明の海難事故が多発、漁船の行方不明はあとを絶たない。
そしてついに巨大な地滑りが発生、誘発されて起きた大津波北ヨーロッパの都市を殲滅する。
この緊急事態に、アメリカ主導で国境を越えた科学者たちが集められ、チームは解明に乗り出すべく実験用に改造された空母に乗り込みグリーンランド海へと向かう。
明らかになったのは人類の誕生よりはるかに太古の昔から深海に存在する単細胞
生物だった。
本書は、4年の歳月をかけて著者シェッツィングが取材した地球科学、海洋生物、
生態系、海洋大循環、プレートテクトニクス、遺伝子学、地球外知的文明、石油資源
産業などの最新の地球海洋科学情報に裏打ちされたリアリティをもって読者に迫って
くる。
また、大長編だけに、そのなかで繰り広げられる人間ドラマにも筆がおよんでいる。愛、友情、陰謀、自己のアイデンティティーの探求。それらを演ずる登場人物たちも
シェッツィングによって生き生きと描き出されている。
結末がやや尻すぼみの感はあるが、この作品が海洋生物を支配する謎の生命体と
人間との死闘をダイナミックに描いた超弩級のエンターテインメントであることに疑いはない。