読書記録17

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

アメリカ・モダン・ホラー界の大御所スティーヴン・キングの息子ジョー・ヒルが書いた
このデビュー作品集は、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家
協会賞の三冠を受賞している。また、’08年、「このミステリーがすごい!」海外編、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門ともに第4位にランクインしており、
怪奇(ホラー)というより、幻想の不思議な世界が堪能できる。
謝辞のなかの掌編を加えて、17の掌・短・中編と『黒電話』の追加部分の、全部で
18編からなっている、原著以上に充実した日本語版ならではの“決定版”とのこと。
私が読んでいて一番琴線に触れたのは、少年・青年期の夢想を具体的に小説化した作品だった。
ヒルは、ときに兄弟であり、あるいは友人同士である少年たちの友情や葛藤や裏切りを幻想小説の形を借りて描いている。
たとえば、「十二歳のとき、おれの一番の親友は空気で膨らませる人形だった。」
そしてその“命を持った”人形との実際の交流を描いた『ポップ・アート』。
‘ぼく’が宙に浮く(というか空を飛ぶ)エピソードを描いた『マント』。
若年性統合失調症と診断された弟の行動と、親友の謎の消失を描いた『自発的
入院』。
ほかにも実にバラエティーに富んだいろんな作品が続くのだが、本書からはジョー
ヒルのそこはかとない文学性と、抒情性、そして末恐ろしい将来性をうかがうことが
できる。