読書記録16

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

’08年、「このミステリーがすごい!」海外編第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」
海外部門第2位に輝いた作品。また、CWA(英国推理作家協会)がその年の最も
優れたスパイ・冒険・スリラー小説に贈る’08年度イアン・フレミング・スティー
ダガーを受賞している。
時は1953年。舞台はスターリン体制下のソ連。主人公はKGBの前身国家保安省
上級捜査官のレオ・デミドフ。彼は、はじめは上からの命令に盲目的に従う模範的な
エリートだったが、自ら見舞われた不運を契機に、地方の人民警察の下級巡査長に
左遷される。そこで、それまでの生き方を改め、自分ばかりか愛する妻や両親の命も
賭して、少年少女連続大量殺人事件の捜査に乗り出すのだった。しかしそれは苦難の連続だった。そもそもみなが平等なソ連という社会主義国家体制の世界では“殺人”
などという犯罪は起こりえないという理念の下にあるからだ。「殺人鬼はこれからも殺しつづけるだろう。それが可能なのはそいつが並はずれて利口だからではない。
そういう人間がいることを国家が認めようとしないからだ。」(下巻200ページ)
この物語は、閉塞した社会におけるレオの自己再生、夫婦の絆の再生、家族の再生を、大変な危灘の数々を乗り越えて、思いもよらぬ連続殺人犯とその動機とに対決
するまでのレオの一途な姿を通して描ききった、とても20代の著者トム・ロブ・スミス
のデビュー作とは思えない重厚な傑作である。
映画化もされるとのことだが、どうか、見せかけのアクションや冒険サスペンスを誇張したエンターテインメントに終わることなく、原作の意図する雰囲気を壊して欲しくないと思う。