読書記録23

グローバリズム出づる処の殺人者より

グローバリズム出づる処の殺人者より

世界最高の権威をもつ文学賞のひとつで、イギリス連邦およびアイルランド国籍の
著者によって英語で書かれた、その年に出版された最も優れた長編小説に
与えられる、「ブッカー賞」’08年度受賞の栄誉に輝いたアラヴィンド・アディガの
小説としてはデビュー作である。
この物語で描かれているのは、BRICsの一角として注目され、経済発展が進む一方で、依然として“カースト”が存在し、「一握りの人間が残りの九十九・九パーセントの
人間をあらゆる面で強力に、巧妙に、狡猾に教育して、永遠の奴隷にしたてあげて
きた」(170ページ)究極の格差社会<闇>と<光>のふたつのインドである。
本書は、インド南部で、ITとアウトソーシングの分野で発展著しい高原都市
バンガロールの起業家‘わたし’が、まもなくインドを訪問する中国の温家宝首相に
宛てて7日間にわたって綴る手紙の形式をとっている。
そこでは、水道も下水処理設備もないごく貧しい<闇>のインドの一家で育ち、デリーで富豪のお抱え運転手となった‘わたし’が、なぜ主人を殺し、その金を持ち逃げし、<光>のインドの起業家になったか、そこに至るまでの半生の日常が、静かに、
せせら笑うかのような、いささか諧謔口調で、しかしその根底に“暗い”何かを含ませて
語られている。
経済ジャーナリストの著者が、あえてノンフィクションやルポルタージュの形式を
とらず、‘わたし’が語る手紙という小説仕立てで本書を創り上げたことにより、
現代インドの実像がよりいっそう鮮烈に、臨場感を持って、読者の胸に届くのである。