読書記録25

荒野のホームズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

荒野のホームズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

’08年、「このミステリーがすごい!」海外編第9位にランクインした、スティー
・ホッケンスミスの長編デビュー作。
時は19世紀末。ところはアメリカ北西部モンタナ州の荒野の牧場。洪水で家族と財産をすっかり失った‘おれ’ことビッグ・レッドと‘兄貴’のオールド・レッドの兄弟は、西部の牧場を渡り歩いた末に、ここで雇われカウボーイの一員となった。このバー・VR牧場はイギリスからやってきた貴族がオーナーをつとめており、どこか怪しげでキナくさい。彼らは監禁同然の扱いを受けるが、やがて牛の暴走に踏みにじられた死体が発見
される。さらには、密室状況下で黒人カウボーイが額に銃痕のある状態で死んでいるという事件も発生する。
‘おれ’が語って聞かせるシャーロック・ホームズの物語にすっかり心酔した‘兄貴’は
この名探偵よろしく、どちらも殺人事件として調査を進めてゆく。
ホームズが実在の人物として扱われていたり、読み書きのできない‘兄貴’が、
ワトスン役の‘おれ’を従えて大西部のホームズとして、その魂を宿して活躍したり
という設定はユニークである。
本書は、ウェスタンとホームズの謎解きという一見、ミスマッチな取り合わせながら、
それを感じさせない、古今東西のホームズもののパロディやパスティーシュを超えた
存在感と読みごたえが‘兄貴’にも‘おれ’にもあり、カウボーイ小説の醍醐味を
たっぷり盛り込みながら、かつホームズばりの謎解きの興味を加えた、痛快無比な
ミステリーである。