読書記録35

wakaba-mark2009-06-04

ぼくと1ルピーの神様 (RHブックス・プラス)

ぼくと1ルピーの神様 (RHブックス・プラス)

本書は、ヴィカス・スワラップのデビュー作であると共に、「作品賞」「監督賞」も
含めて、’09年第81回アカデミー賞の8部門を受賞したダニー・ボイル監督による
スラムドッグ$ミリオネア』の原作である。
映画を先に観てから読んだが、原作では正解に至るまでのエピソードが一層詳しく
奥深く描かれており、興味深かった。
クイズ番組「十億(日本円にして20億円位)は誰の手に?」に全問正解した18才の
ウエイター、‘僕’ことラムは不正の容疑で逮捕されるが、女性弁護士によって
救われる。
ストーリーは、彼女に語って聞かせる‘僕’の18年間を回想し、それにしたがって、
一問ずつ録画された番組のDVDが再生される形で進んでゆく。そして、ラムがなぜ
正解を知っていたかが解き明かされてゆく。それと共に、新興諸国BRICsの一国として発展めざましいインドの、貧困層、政治や警察の腐敗、幼児虐待、強盗、殺人、売春、ヒンドゥー教イスラム教の宗教対立などの、現代インドが抱える問題が明らかに
なってゆく。
捨て子として拾われた孤児ラム。ラム・ムハンマド・トーマスというヒンドゥー教
イスラム教、キリスト教の3つの教徒を併せ持った名前をつけられた‘僕’が、極貧の
生活のなかでわずか18才にして死と隣り合わせで向きあってきた波乱万丈の人生。それこそがこの史上最高額の賞金をかけたクイズの正解であり、現代インドの実像
なのだ。
それとあわせて、逆境をバネに、自分の両手、両足だけを頼りにして、いつも前向きに突き進んでゆく‘僕’の現実的なたくましさやしたたかさも読みどころであろう。
本書は、意表をつく、ミステリー的といってもいい卓抜な構成で読者を惹きつける
感動作である。