読書記録39

狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)

狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)

ジェイムズ・グレイディの、’08年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門第10位、
このミステリーがすごい!」海外編第18位にランクインした新感覚ミステリー。
任務に燃え尽き、組織からドロップアウトした元スパイの男女5人が隔離入院
させられたアメリカ北東部、カナダ国境に近いメイン州のCIA管轄の秘密の精神病院。ここで非常勤の担当医師が殺され、自分たちが犯人にされたんじゃたまらないと
思った彼らは病院を脱走し、車を繰り返し盗んで黒幕と思しき人物のいるワシントン
DCを目指す。ところが、薬を忘れてきて、それが切れる一週間がタイムリミットと
なるのだった。ここまでいうと、さぞ緊張感に満ちたスリリングな物語が展開する
だろうと思われるのだが、彼らを追う謎の女も現れ、期限のある彼らは暴走をさらに
加速させてゆく。読んでいて意外にノリがよく、むしろ痛快でユーモラスなエピソードの連続となる。
物語の途中でなぜ彼らが狂気にとらわれ、精神病院に入れられたかという過去が
比較的長い章で紹介され、この部分は限りなく悲惨なものだが、それも含めて、彼らの人物造形の巧みさがこの物語のすべてといっていいだろう。「孫のいない白髪の男。
どの男の妹にも見えない黒人の女。座席の端にちょこんとすわっている分厚い眼鏡のずんぐりした男。孫娘に絶対に家に連れてきて欲しくない、ぼさぼさの髪のちんぴら
ロックンローラー。目には幽霊が宿り、ほほえむとナイフが光ったような感じがする
詩人ふうの男。」(287ページ)
本書は、ロードノベルとしても一級品だが、653ページという厚さもなんのその、
つい読み進んでしまう、彼らが30才代から50才代ということをつかのま忘れて、
青春ピカレスク・サスペンスかと思わせてしまう作品である。