読書記録38

リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(下) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(下) (講談社文庫)

マイクル・コナリーの邦訳最新刊は、“当代最高のハードボイルド”といわれている
<ハリー・ボッシュ>シリーズではなく、ミッキー・ハラーという刑事弁護士を主人公に
した初のリーガル・サスペンスである。
本書は「国際ミステリー愛好家クラブ」が主催するマカヴィティ賞のベスト・ノヴェル
(最優秀長編賞)と「PWA(アメリカ私立探偵作家クラブ)」のシェイマス賞のベスト
・ノヴェル(最優秀長編賞)の’06年度ダブル受賞作である。
収入は苦しく、有名でもなければ誇れる地位もない。私生活では2度の離婚を経験
している。事務所を持たず、元妻を電話番として、高級車リンカーン・タウンカーの
後部座席をオフィースとする中年の“リンカーン弁護士”ハラー。
前半はロサンジェルスに点在する裁判所を縦横に行き来して従来の、主に麻薬がらみの依頼人たちのもとを訪れ、こまめに報酬を稼ぐ彼の日常が描かれる。
そんな彼に、「フランチャイズ事件」と呼ばれる、多額の報酬が約束された、資産家の息子の暴行事件に対する弁護の依頼が舞い込む。意気込んで事件を調べるハラー
だが、事態はそううまく運ばず、その息子ルーレイがとんでもない悪党だということがわかるのだった。
はじめはこの新しい主人公の人となりの紹介で、やや冗長に感じられたが、下巻に
入り、ハラーの調査員が殺害され、その容疑者とされながらも、ハラーが臨む裁判が
始まると、一気にページ・ターナーの様相を呈してくる。
この依頼人を悪党と知りながらも無罪にするための若い検察官との攻防は、法廷ものを専門とする作家の作品に引けをとらない一定以上のレベルの出来だと思う。
ミッキー・ハラーは決して正義を貫く弁護士ではなく、悪く言えば金に汚い悪徳弁護士の部類に入るのだろうが、コナリーはあくまでもエンターテインメントとしてこういった
キャラクター設定をしたのだろうし、読者は、まぎれもなくハードボイルド・タッチの
コナリーワールドを堪能することができるだろう。