読書記録41

八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)

八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)

アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」の
’94年度グランドマスター(巨匠)賞に輝いたローレンス・ブロックの、PWA(アメリ
私立探偵作家クラブ)が主催するシェイマス賞の’83年度ベスト・ノヴェル(最優秀
長編賞)受賞作。日本では「週刊文春20世紀ミステリー・ベスト30」の第16位に
ランクインしている。
本書は無免許の探偵<マット・スカダー>シリーズの5作目である。
スカダーは元警察官だったが、追跡中の犯罪者に向けて撃った銃弾の流れ弾が
ひとりの少女の命を奪ってからというもの、アルコールに溺れ、職も家族も失い、
安ホテルに住みながら非公式の探偵業を営んでいる。今はAA(アルコール中毒
自主治療協会)の集会に顔を出して断酒を誓っている。
そんな彼の元にヒモと手を切りたいという女が依頼人として現れる。探し当てたヒモは意外にもあっさり了承するが、その直後、女がホテルで惨殺される。今度は容疑者と
なったヒモから真犯人探しを依頼されることになったスカダーは、ニューヨークの街を
さまようかのように関係者を訪ね、調査を始めるのだが、新たな死が彼を待っていた。結果、新聞に載っていたある事件の記事を伏線として、終決に至るのだが、それはいかにも先進国社会の最前衛都市でありながら、一方で“汚れた街”現代ニューヨークを象徴するような事件だった・・・。
物語の端々にスカダーが新聞記事で、この街で起こる悲惨な事件の数々に溜息を
ついたり、アルコールの誘惑に負けそうになったり、また他の一癖も二癖もある登場
人物たちとの味のある会話も含めて、行間からは深い虚無感と陰影に満ちたスカダー像がうかがえる。
本書は大都会の片隅で“仕事”をこなすスカダーの人間臭い魅力を描いたネオ・ハードボイルド小説であると共に、その<感傷>と<影>の部分を描いた一種の都市小説といえるかもしれない。