読書記録43

謀略法廷〈上〉 (新潮文庫)

謀略法廷〈上〉 (新潮文庫)

謀略法廷〈下〉 (新潮文庫)

謀略法廷〈下〉 (新潮文庫)

ここのところ、ミステリーから離れて他の分野の作品も書いていたジョン・グリシャムが広義の“法廷”ものに戻ってきた。
長年にわたる環境汚染で住民に甚大な被害を及ぼしてきた巨大企業が民事裁判で敗訴した。
多額の損害賠償金を課せられたこの評決に、被告である企業側はミシシッピ州最高裁への上訴のかまえを見せる。ここで、何もかも犠牲にして貧しい原告側の弁護を
つとめる若き弁護士夫妻と、企業側の法廷闘争が始まり、弱者が強者に一矢を報いる爽快なリーガル・ストーリーが展開されるものと思っていると、そうではない。
原告側の巨大企業の社主は、逆転勝訴を企み、なんと上訴を行う最高裁の裁判官を選挙でもって自らの陣営に有利な者に変えてしまおうとするのである。ここに金にものをいわせた一大キャンペーンが行われる。
冒頭で広義の“法廷”ものと書いたが、本書では原告と被告が闘う法廷シーンは
ごくごくわずかで大半は私たちにも身近な「選挙」の物語が占めている。それは非常に現実的で、生々しく、私はフィクションであることを忘れて一気に読み進んでしまった。そしてその結末に茫然としてしまうのである。
本書は、エンターテインメントの域をはるかに超えた、富めるものはその財力にものを言わせて、そのエゴイスティックなマネーの論理で「正義」を裁くはずの法曹界さえも
牛耳ってしまう、醜いアメリカ腐敗の現状を描き切った力作である。