読書記録44

ボックス21 (ランダムハウス講談社文庫 ル 1-2)

ボックス21 (ランダムハウス講談社文庫 ル 1-2)

6月、冷夏のストックホルムリトアニアから連れてこられたという20才の売春婦が
鞭打たれ意識不明の重傷を負って南病院へ運び込まれた。やがて意識を取り戻した彼女は、逃げ出した娼婦仲間の助けを借り、なんと医師と医学生4人を人質にして
病院の地下の遺体安置所に爆薬を仕掛けて篭城する。
彼女はある刑事を寄こすように要求する。果たして彼女の真の目的は何か・・・。
同時に刑務所から出所した麻薬中毒者の暴行殺人事件が起こり、市警のエーヴェルト警部とスヴェン警部補が病院に臨場する。
全編にわたって淡々としながらも時に激しさもあらわす情景描写。加えて“過去の傷”を抱え、真相を知ってしまったがゆえに煩悶するエーヴェルト警部、同僚の隠蔽行為に憤慨しながらも悩むスヴェン警部補、脅迫されて証言できない殺人事件の被害者の姉である女医、3年間の苦しみに耐えてきたくだんの売春婦リディア、またそのほかの
登場人物すべての、陰影に満ちた、息苦しいまでの心理描写が読む者を惹き付ける。そして、600ページを超える長い物語のラストから三行前の“衝撃”のひと言・・・。
本書は、このジャーナリストと元服役囚という異色の合作作家の、個性のある文体を静かにその一種独特の雰囲気にひたりながら読み進み、しかもドラマチックに
ストーリーを味わうことのできる小説である。と同時に、人身売買・強制売春という
現代スウェーデンが抱える社会の病理に鋭く切り込んだ問題作である。