読書記録51

愛する者に死を (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1805)

愛する者に死を (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1805)

リチャード・ニーリイの、ペイパーバックで発表された’69年のデビュー作である。
「わたしは殺人を計画している。場所はサンフランシスコ・・・。」奇妙な書き出しで
始まる手紙の送り主は、殺人の顛末を手記にするから出版しないかと、業績不振に
悩むニューヨークの出版社社長マイクにもちかける。彼はさっそく愛人で編集部長の
ジーナをともなってサンフランシスコに飛ぶが、待ち受けていたのは殺された死体と
ジーナへの暴行だった。ニューヨークへ逃げ帰ったマイクは、件の殺人の容疑者に
されてしまう。殺人予告状は何者かによって周到に仕組まれた罠だったのである。
物語は、サンフランシスコからやってきたフレンドリー警部の捜査を縦軸に、マイクと
ジーナ、娘のキャロル、娘婿のデイヴィッドとその秘書リタ、顧問弁護士のサムたちを巻き込んでの、たたみかけるようでスリリングな場面の連続を横軸にして、ノンストップで展開してゆく。
結末は、意外な真犯人と、ニーリイが得意とするらしい、当時流行の精神分析理論
による動機の解明がなされているところも興味深い。
本書は、リチャード・ニーリイという、現在日本ではあまり知られていない奇才の
書いた、サイコスリラーのつかみと本格謎解きの趣を併せもった、ペイパーバック小説ならではのジェットコースター・サスペンスである。