読書記録52

レイン・フォール/雨の牙 (ハヤカワ文庫)

レイン・フォール/雨の牙 (ハヤカワ文庫)

バリー・アイスラーは、日本を舞台にしたこのデビュー・サスペンスで一躍注目を
集めた。そして<雨−レイン−>のタイトルでシリーズ化されている。また、主役の
殺し屋ジョン・レインを椎名桔平が、そして相手役のジャズピアニストみどりを長谷川京子が演じて、かなり脚色されているらしいが映画にもなった。
日米ハーフのジョン・レインはヴェトナム戦争を体験したフリーランスの殺し屋だ。彼はターゲットを自然死に見せかけて殺すことで、これまで幾度も政治がらみの暗殺を
手がけてきた。今回の依頼も難なくやってのけた。しかし、暗殺したキャリア官僚が
持っていたであろう、国家機密が隠されたディスクをめぐって、彼は国家的な陰謀の
渦に巻き込まれることになる。レインは偶然出会ったその官僚の娘みどりと共に、CIA、政界の黒幕、そして警察庁からも追われる立場になる。
本書は、レインに何度も降りかかる危機を脱するアクションシーン、みどりとレインに
芽生える恋愛感情、ハーフであるが故のレインの煩悶、レインにいつまでもつきまとうヴェトナム戦争の忌まわしい記憶と、読みどころは多いが、根底にあるのが日本の
裏社会・政治サスペンスであるため、緊張感が途切れることのない厚みのある骨太の物語となっている。
それにしても驚くのは、本書がアメリカ人の手による小説であるという点だ。レインが
乗る地下鉄やJR、立ち寄る店などは実在のものであるばかりで、東京の地理や土地の歴史はまるでガイドブックを見るようだし、日米関係や日本の政治情勢も実に詳細でリアルである。日本の作品を読んでいるような錯覚すら覚える。これまで外国人が
書く日本の小説は“武士道”、“禅”など、スピリチュアルな面とか、“ヤクザ”を前面に
出すものが多かっただけに、バリー・アイスラー親日ぶり、取材力、そして見識は、
日本人の作家と同等かそれを凌ぐものがある。
ともあれ本書は、圧倒的な存在感を持つ、ジョン・レインの姿を描ききった力作である。