読書記録61

ハイドゥナン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン〈4〉 (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン〈4〉 (ハヤカワ文庫JA)

’05年、「SFが読みたい!」国内編ベストSF第4位にランクインした、藤崎慎吾の、
構想に5年、執筆に3年を費やしたといわれる2000枚を超える大長編。
「2032年、奄美大島から与那国島にわたる南西諸島に、未曾有の地殻変動によって沈没の危機が迫る。」こんな予備知識で読み始めた。すわ『日本沈没』『死都日本』
『深海のYrr』を彷彿とさせるパニック巨編か、はたまたハリウッド映画ばりの大災害
エンターテインメントかと思っていると実は、テクノロジーや災害の悲惨さを超えた
ところを描ききった物語だった。
なるほど深海調査船<しんかいFD>をはじめとするハードウェアや、この危機を
食い止めようと独自のISEIC(圏間基層情報雲)理論を元に6人の異なる分野の科学者たちが乗り出す。またそればかりではなく、進歩したさまざまな未来の科学技術
・理論を興味深く読むことができる。
しかし物語の主人公は「色を聞いたり音を味わったりすること」ができる“共感覚”を
もつ青年岳史と、与那国島で神の声を聞いたり、雨乞いの儀式で本当に「雨を
降らして」しまうことのできたりする若い“ムヌチ(巫女)”柚である。
彼らが‘神の遣い手’となり、島々を救おうと煩悶し、そして自らの幸せを願うのだ。
最終的には科学者たちも彼らの“能力”に頼ることになるのである。そこには前述の
諸作品にあるような政府や軍の関与やスケールの大きい凄惨な描写は最小限に
抑えられており、伝奇小説の趣さえ漂う。
本書からは、藤崎慎吾の科学ジャーナリスト出身らしい豊富な知識と綿密な取材に
加えて、日本古来の“神々の領域”に踏み込んだ豊かな想像力を読み取ることが
できる。
ともあれ本書は、リアリティあふれる近未来最先端の科学技術と、和製SFらしい
“神がかり”とを融合させた大作である。