読書記録62

サイコブレイカー

サイコブレイカー

『治療島』による衝撃のデビューから3年。本書は、『ラジオ・キラー』『前世療法』に続くドイツのセバスチャン・フィツェックのサイコ・スリラー第4弾である。
女性ばかりを狙い、肉体には外傷を与えずに精神だけを破壊する‘サイコブレイカー’により、3人の犠牲者が出ていた。いずれも昏睡状態に陥り、最初の被害者は死亡
してしまっていた。
その魔の手はベルリン郊外の猛吹雪で孤立した精神病院に伸びる。そして女性医師を皮切りに、ひとり、またひとりと職員・患者が姿を消して行く。記憶喪失で入院して
いた通称カスパルたちと‘サイコブレイカー’の熾烈な攻防戦が続く。
本書を一気読みさせるリーダビリティーは、この戦いのスリルだけではない。
クローズドサークル”といった 本格もののような趣向と、「恐怖の瞬間まで、
あと×時間」といった“タイムリミット・サスペンス”、カスパルの記憶喪失にまつわる謎、そして‘サイコブレイカー’の正体にもトリッキーな工夫が凝らされている。
さらに、このストーリー自体が、大学教授による学生たちに対するある心理学実験の
テキストにもなっているという二重構造をなしており、読者もまた、本書では『カルテ』
としている作中作のようなこの物語を読むことによってその実験に巻き込まれる
という仕様になっている。
本書は、フィツェックがスリラー・エンターテインメントの要素を、贅をつくして惜しげも
なく取り入れた、最後の最後の“どんでん返し”に至るまでの二重三重、いやそれ以上の仕掛け満載の、とても一筋縄では行かない作品である。