読書記録75

毒蛇の園 (文春文庫)

毒蛇の園 (文春文庫)

『百番目の男』『デス・コレクターズ』に続く、アメリカ南部・アラバマ州モビールの刑事を主人公にした<カーソン・ライダー>シリーズの邦訳第3弾。ジャック・カーリイは、
前2作がそれぞれ「このミステリーがすごい!」海外編’05年6位、’07年7位と、共にベストテン圏内にランクインする新進の実力派作家だが、本書ではどうか。
そして見事、’09年、「このミステリーがすごい!」海外編第12位にランクインした。
惨殺された地元ラジオ局のレポーター、酒場で殺害された精神科医とその犯人で、
服役中刑務所内で毒殺される受刑者、そして殺されたあげくに火をかけられた
高級娼婦、さらには4年前の女性教師殺し、見え隠れする類人猿みたいに毛深い
という殺人者。ルーカスという謎の人物。
――とまあ、刑事カーソンの前に積み上げられる死は生半可ではないサイコ・スリラーの様相を呈する。そして、やがて少しずつ明らかになるのは、地元実業界を牛耳る
名門富豪一族の暗い“血の闇”だった。終盤ではカーソン自身も拉致監禁されて危機にはまってしまう・・・。
しかし本書の、そしてこのシリーズの特長は、一般的な暗く恐ろしいサイコ・スリラーとは異なり、テンポの好いストーリー展開、カーソンとハリーのコンビネーション、彼らを
取り巻くユニークな脇役たち、特に本書では病理学者クレアとカーソンとの関係、
当意即妙の会話と相次ぐエッジの効いた場面の連続と、33才というカーソンの
若々しさ、青臭さを前面に押し出した、若者小説の雰囲気が支配している点だろう。
そうしてカーリイは、果たしてそれが成功しているかどうかは前2作と比べると私には疑問は残ったが、本書で異常心理の犯罪を正面から描くサイコ・スリラーの基本形を
とどめながらも、スリリングな謎解きミステリーを構築している。