読書記録82

死神を葬れ (新潮文庫)

死神を葬れ (新潮文庫)

’09年、「このミステリーがすごい!」海外編第16位にランクインした、ジョシュ
・バゼルのデビュー長編。
本国アメリカで発売前から話題を集めたり、’10年、レオナルド・ディカプリオ主演での映画化が決まったり、何より訳出がジェフリー・ディーヴァーの<リンカーン・ライム>
シリーズの翻訳者池田真紀子とくれば、面白くないわけがない。
‘僕’ことピーター・ブラウンはニューヨークの<マンハッタン・カトリック総合病院>
の研修医。病院勤務は凄まじい忙しさで覚醒剤でも飲んでなければやってゆけない。よくあるメディカル・スリラーかと思っていると、とんでもない転回が待っていた。
冬のある日、新規入院患者に「ベアクローじゃないか!」と言われて事態は一変する。
実は‘僕’はその昔、マフィアの殺し屋だったのだ。今は「証人保護プログラム」
のもとで新たな人生を送っていたが、そいつは‘僕’の過去を知る男だったのである。
ここから‘僕’の多忙を極める大病院の日常と、ノワールが香るマフィア時代の
エピソードが交互に語られる。
狂騒的な医療現場の現実は、ブラックなユーモア感にあふれ、「とても安心して病院に入院なんかできないぞ」と思わせるほどだ。また回想シーンでは、ユダヤ人の祖父母に育てられ、マフィアの一員になってゆく姿がシリアスに描かれてゆく。
やがてその祖父母にも秘密があることが分かり、過去と現在がシンクロするとき、
爆痛に耐えながら自らの身体を切り開いて武器にするという‘僕’の凄まじい戦いが
展開される。
本書は、一歩間違えれば“バカミス”にもなりかねない、新しいタイプのミステリー
であり、抜群の疾走感とノリで一気に読ませるページターナーである。