読書記録83

ハヤカワ・ミステリ文庫の<現代短篇の名手たち>シリーズの内の一冊。
’09年、「このミステリーがすごい!」海外編第8位にランクインした、天才的犯罪
プランナーにして盗みのプロ、ドートマンダーが主演する短編集。
印象に残った作品をいくつか挙げてみよう。
「馬鹿笑い」:優秀な競馬馬を種馬として盗もうとするのだが・・・
「悪党どもが多すぎる」:ドートマンダーとケルプは、銀行の金庫破りのため、
穴を掘ってやっと金庫にたどりつくのだが、その銀行はなんとギャングに襲われて
おり、そこには人質にされた銀行員や客が閉じ込められていた・・・アメリカにおける
ミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」’90年度ベスト・ショート
・ストーリー(最優秀短編賞)受賞作。
「雑貨特売市」:盗んだ古銭を故買屋に売りに行くのだが、新たな客が400台の
台湾製TVセットをトレーラーに積んで持ち込んできた・・・
「芸術的な窃盗」:昔の刑務所仲間がいっぱしの絵描きになって個展を開いた。
彼はドートマンダーに自分の絵を盗んでくれと依頼するのだが・・・
「悪党どものフーガ」この短編集のオリジナル作品。本物のドートマンダーではなく、
並行世界に住む泥棒ジョン・ラムジーが登場しドタバタ劇を演じる。最後の「コーダ」で笑うに笑えない結末が・・・
これらを含めて、他の作品のいずれも、盗みのあの手この手、短編の小説作法の大技小技を次々に繰り出し、それに加えてユーモアと皮肉をたっぷりときかせて、計画は
パーフェクトなのに、なぜか思わぬ事態を招いてしまうドートマンダーの奮闘ぶりを、
最後のオチをきかせて描いている。
ウェストレイクの’08年大晦日の急逝が惜しまれる。
最後に、タイトルが1ダースとあるが、収録作が11編とは? 残りの1編は
ドートマンダーが盗んでしまったのだろうか。