読書記録84

愚か者の祈り (創元推理文庫)

愚か者の祈り (創元推理文庫)

週刊現代」の「警察小説ベスト10」で第3位(ちなみに第1位は、スチュアート・ウッズの『警察署長』、第2位は、ヘニング・マンケルの『白い雌ライオン』)として紹介された、ヒラリー・ウォーの『失踪当時の服装は』と並び称される’54年の初期作品。
’05年、「このミステリーがすごい!」海外編で第11位にランクインもしている。
舞台はアメリカ北東部コネチカット州の郊外都市ピッツフィールド。1953年5月3日に若い女性の惨殺死体が発見される。砕かれた顔。切り裂かれた胴体からは身元が
判明できない。物語の4分の1が過ぎたあたりで、若き刑事マロイの発案と努力の
結果、被害者の頭蓋骨をもとにした“復顔”がなされ、ようやく被害者が誰だか判明
する。しかし容疑者はようとして浮かび上がらず、警察の捜査は難航する。
この<コルビー公園の殺人鬼>に不安におびえる住民、警察の無能を糾弾する
地元新聞、市長や署長からの圧力にたえながら、老練なダナハー警部とマロイ刑事を中心とした、被害者の過去空白の5年間にさかのぼる地道な捜査は続く。
本書はいわゆる犯人探しのフーダニットものだが、読みどころのひとつは、各章の
はじめに日付や曜日などが記され、リアリズムをサスペンスフルに追求しているところにある。またあくまで「事実」を重視するダナハー警部と「推理」で物事を進めるマロイ刑事のやりとりや、この被害者の女性の空白の5年間が埋められてゆく過程も
読みどころとしてあげられるだろう。やがて、事件から1ヶ月近く経ってやっと犯人と
思われる男が浮上し、解決したかに見えるのだが、結末には思わぬ“どんでん返し”が待っていた。
本書は、初めはまるで捕らえどころのなかった事件を、仮説・推論・検証を繰り返して徐々に事実と全体像を明らかにしてゆく、その過程を味わう堅実な正統的警察捜査
小説である。