読書記録1

無理

無理

奥田英朗が『オリンピックの身代金』をステップボードにして、「このミステリーが
すごい!」にもランクインした『最悪』『邪魔』の社会派シリアス路線に帰ってきた。
’09年、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第6位、「このミステリーがすごい!」国内編第19位にランクインしている。
本書は’06年から’09年にかけて『別冊文藝春秋』に長期連載された長編である。
舞台は東北の3つの町が合併してできた人口12万の地方都市「ゆめの市」。これと
いった産業はなく雇用は低迷、地元商店街はシャッターを下ろし、唯一のショッピングモールへ行くのにも公共交通機関は赤字で本数を減らされている。住む人は何の
希望も見出せないでいる。季節は冬で、異常気象ゆえ例年になくどんよりとした寒さがこたえる雪模様の天候だ。
ストーリーはこんな暗いシチュエーションで、メインの登場人物5人に降りかかる日常のさまざまな問題が次々と、あくまでも客観的に描かれてゆく。またその「突き放した」描き方は終末にいたるも何の結末も見ずに終わるまで変わらない。
特徴的なのは少なくとも5人のうちふたりは地方公務員と市会議員という、われわれ庶民から見れば恵まれた境遇の者たちすら日々問題を抱え、気が休まる暇もなく鬱屈した生活を送ることを余儀なくされている現実である。この物語は、この社会で暮らす5人の「出口のない・解決策のない」群像劇だが、サブテーマとして、自治体あげての生活保護打ち切り政策、ゲームに興じ親に暴力をふるうひきこもりニート、主婦売春、ブラジル人労働者の問題などにも触れられており、これまた行き詰まった現在の日本と暗澹たる未来を象徴するものばかりである。
『最悪』から10年、『邪魔』から8年経ってもなんら変わることのない日本の社会のこのやるせなさはどうだ。