読書記録2

殺人者

殺人者

壮&美緒というシリーズキャラクターが活躍するトラベル・ミステリーとは別に、
年に1作程度社会派色の強いノン・シリーズの本格ミステリーを発表している深谷忠記だが、本書は後者にあたる’09年の作品。
連続して3件の殺人事件が起こる。手口は皆同じで鈍器で頭を殴られ、ロープで首を絞められていた。
さらに「殺人者には死を!」とワープロで打たれた紙が残されていた。被害者はいずれも過去に殺人の前科がなく、この遺留品に捜査陣は惑わされる。
ストーリーは各章のはじめに配されたある少女のエピソードから本文へとつながるのだが、物語が進むにつれてそれが具体性を帯びて、本書のメインテーマである深刻で悲惨な児童虐待問題へとつながってゆく。その構成の妙と事件自体の混迷する謎も
さることながら、深谷忠記の綿密な取材による児童虐待の現実と、救済する組織
・施設の努力には登場する関係者のみならず、読者も憤りと共感をおぼえずには
いられない。

やがて地方新聞の編集員兼記者の目撃証言から意外な容疑者が浮かび上がり、
冒頭の少女の正体と本文との関りも明らかになるのだが・・・。
終章では思わぬどんでん返しが待っていた。
本書で、深谷忠記児童虐待という社会問題を取り上げ、それを二重の意味での
“殺人者”というタイトルにこめ、さらにはミステリーという形式を取りながら尋常とは
いえない域にまで達してしまった真犯人を配し、世間に糾弾しているのだ。