読書記録3

追想五断章

追想五断章

本の雑誌ダ・ヴィンチ』の’09年11月号で「絶対はずさない!プラチナ本」として紹介された“青春小説の旗手”米澤穂信が“青春後”を描いたミステリー。
初出の『小説すばる』’08年6月号から12月号まで連載されたものに加筆修正が
ほどこされている。
’09年、「このミステリーがすごい!」国内編第4位、「週刊文春ミステリーベスト10」
国内部門第5位にランクインしている。
事情があって大学を休学中で、伯父の古書店で居候のアルバイトをしている芳光は、ある女性から頼まれ、彼女の亡くなった父親が書いた短編5編を探すことに。
探して欲しい短編はみな、結末が伏せられたリドル・ストーリーとなっているという。
調べて次々と発見するうち芳光は、22年前の「アントワープの銃声」という、かの地で日本人女性が死んだ事件のことを知るのだが・・・。
彼が出会うリドル・ストーリーの登場人物やその背景に見え隠れするドラマ。そして
最後に突き当たる真相・・・。その作中作を織り交ぜた、謎解きの興味に満ちた構成の妙にただただ圧倒される。最後まで読んで、あらためて序章を読み返すと理解が一層深まる仕組みになっている。
それにしても本書は、平成4年というバブル崩壊後のやるせない時代に生きる芳光といい、やむにやまれず5編の短編を書いた父親の意図とその煩悶といい、22年前の事件にかかわった父親と娘の悲劇といい、読後にいつまでも哀しみの余韻が残る
本格ミステリーである。