読書記録4

SOSの猿

SOSの猿

もとは読売新聞夕刊に’08年10月から’09年7月まで連載された作品。一冊の長編にするにあたり大幅な加筆・修正がほどこされたらしい。
伊坂幸太郎の作品は、どれも独特の人を喰ったような浮遊感があり、ファンタジックな超能力が出てきたりする。また、バラバラの話が進行する複数の章から構成され、
最後にそれらがひとつに収斂されてゆくというミステリー風味の謎解き趣味があったりもして、私も含めて多くのファンを抱えている。
本書も例外ではなく、ひきこもりを治して欲しいと頼まれる、副業で“悪魔祓い”の
真似事をしている‘私’の話と、コンピューター端末の誤操作で株を誤発注して
300億円の損失を出した証券会社へ調査に赴くシステム開発会社の‘五十嵐’の話(しかもそれを語るのはなんと孫悟空なのだ)が交互に繰り返され、さまざまな
エピソードや薀蓄が積み重なってゆく。
そしてそれらは終末にいたって時系列を超えて交錯し、まとまってゆく。
ああこういうことだったのかという具合だが、その解決編にもひとひねりというか、
孫悟空が幻となって関ってくる。
『モダンタイムス』『あるキング』あたりから、確かに作風に変化が見られ、かつての
ミステリーっぽさはなくなってきて、上述の<伊坂テイスト>のみが強調されている
ような気がする。
本書は、「孫悟空」「悪魔祓い」と時系列を超えた独特の浮遊感を味わわせてくれる
怪作であるといっていいだろう。デビュー作『オーデュボンの祈り』の世界に回帰した
ように思われるが、これが“今”の伊坂幸太郎なのだろう。