読書記録8

その作風から“アメリカ文学界の狂犬”とも呼ばれているLA4部作で有名な暗黒小説の大家ジェイムズ・エルロイにして「この30年で最高の犯罪小説だ」と言わしめた、
ドン・ウィンズロウの、30年にわたる麻薬戦争を描いた入魂の大長編。
’09年、「このミステリーがすごい!」海外編で話題作『ミレニアム』をおさえて断トツ
第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門では第2位に輝いた。
血みどろの麻薬戦争に巻き込まれたDEA(麻薬取締局)のエージェント、ドラッグの
密売人たち、高級コールガール、殺し屋、そして司祭。戦火は南米のジャングルから
カリフォルニアとメキシコの国境地帯へと達し、’75年から’04年までの約30年に
わたって苛烈な地獄絵図を描く。
本書は、麻薬カルテルの密輸の実態、組織化、陰謀、暴力抗争、政治的暗躍と権力
との癒着、それにともなう政治・官憲の腐敗と、復讐、暗殺、そしてそれらに立ち向かう正義、人々の愛憎、何よりもまして裏切りにつぐ裏切りの構図のそれぞれを余すところなく、史実をまぶしながらもあぶりだしている。
それにしても激しい小説である。私はウィンズロウの作品を読んだのはこれが初めてだが、巻頭の「主な登場人物」が次々と殺されてゆき、血塗られた抗争の果てに
生き残って微笑むのは誰か・・・、ウィンズロウの現在形・言い切り型のハードな文章に臨場感をあおられて、文庫上・下巻にして1041ページの厚さにもかかわらず、最後の最後まで目が離せず一気読みしてしまった。本書はまさに、ウィンズロウが渾身を
こめた、読み応え満点の一大サーガである。