読書記録13

スカーペッタ (上) (講談社文庫)

スカーペッタ (上) (講談社文庫)

スカーペッタ (下) (講談社文庫)

スカーペッタ (下) (講談社文庫)

パトリシア・コーンウェルの<検屍官>シリーズ第16弾。
本書でコーンウェルはヒロインの名前をタイトルに冠す熱の入れようだ。また講談社側も訳出に初めてジェフリー・ディーヴァーの<リンカーン・ライム>シリーズで有名な
人気翻訳家池田真紀子を起用、力が入っている。
’08年元旦、新年早々検屍で忙しく働くスカーペッタのもとに、ニューヨークから、前日の大晦日に発生した若い女性の殺人事件で第1発見者で重要参考人とされる青年がスカーペッタが相手でないと何も話さないと、彼女を逆指名する連絡が入る。
急ぎボストンから駆けつけるスカーペッタだったが、そこからわずか2日間の、しかも
そのほとんどが元旦という、短い時間に、スカーペッタをはじめ、夫のベントン、姪の
ルーシー、元助手のマリーノ、そしてニューヨークの女性検事バーガーらが、それぞれに活動する姿が文庫上・下巻のほとんどを費やしてじっくりとドキュメンタリータッチで描かれる。
キーとなるのは、ネット上のゴシップサイト<ゴッサム・ガッチャ>に掲載された
スカーペッタの記事や、被害者テリーとくだんの青年オスカーのネット上のやりとりで、ルーシーが解読するこれらの情報が今回はスカーペッタの検屍以上にウエイトを
占める。
欲を言えば、このゴシップサイトの影の執筆者や連続殺人事件の真犯人のゆがんだ動機とかパーソナリティが詳しく書き込まれていないことだろうが、シリーズも16作目となり、お馴染みのメンバーたちが、時代の先端をゆく情報ネットの世界に操られながらもそれを紐解いてゆく過程が本書の読みどころなのだろう。
私はこのシリーズは第1作の『検屍官』くらいしか読んでいないので前後の関係や
ヒストリーは全然承知していなかったが、それでも新年の2日間をこれほど紙面を
費やして凝縮して濃密に描ききったコーンウェルのリーダビリティあふれる筆力のまえに思わず一気読みしてしまった。