読書記録12

静かなる天使の叫び (上) (静かなる天使の叫び) (集英社文庫)

静かなる天使の叫び (上) (静かなる天使の叫び) (集英社文庫)

静かなる天使の叫び (下) (静かなる天使の叫び) (集英社文庫)

静かなる天使の叫び (下) (静かなる天使の叫び) (集英社文庫)

講談社の文庫情報誌『IN★POCKET』の’09年11月号「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」で「総合」第6位、「翻訳家&評論家が選んだ」部門第2位にランクインした作品。
また、’09年、「このミステリーがすごい!」海外編第13位にもランクインしている。
‘わたし’ことジョゼフ・カルヴィン・ヴォーンは、第2次世界大戦前のアメリカ南東部
ジョージア州の田舎町で母親とふたりで暮らす少年。やがて彼の周囲で少女連続
殺人事件が発生、それによってトラウマを負った‘わたし’はさまざまな苦悩を
抱えながら成長してゆく。
物語は、‘わたし’の一人称多視点で、まもなく12才になろうという1939年から、中年の域に達する1967年までの約30年にわたる数奇な半生を切々と綴ってゆく。そこには、幼馴染みたちとの行動、ヴォーン家の隣人のドイツ人一家、ヴォーン家の長年の友人ライリーとのふれあい、精神を病んだ母親の問題、若くしての女性教師との恋愛
・結婚と悲劇、そして作家を志してニューヨークで過ごす日々、新たな親友と恋人との
出会い、さらには‘わたし’を襲う絶望的運命。少女連続殺人事件を横糸に、これらの出来事が縦糸となって、重厚な小説世界が展開されてゆく。
サスペンスや謎解きの要素もあれば、瑞々しい青春小説の要素もあるし、第2次大戦の戦況やヴェトナム戦争ケネディ暗殺といった史実をてらした年代記の要素もある。結末に至って、30年にわたっておよそ30人もの少女たちを惨殺してきたサイコな
真犯人との対決があるが、そこに至るまで、シリアルキラーの影に心をかき乱される
‘わたし’の心の軌跡が、いわくありげな断章を間に挟みながら、内面奥深くに
進みこんでいくように述懐されている。
本書は、圧倒的なリーダビリティーを持った、この先もいつまでも読んでいたいと
思わせるような読書の愉悦を与えてくれる、ミステリーという範疇におさめるのが
もったいないような文学性豊かな作品である。