読書記録22

野望への階段

野望への階段

’04年の『ダーク・レディ』以来のリチャード・ノース・パタースンの邦訳本である。
それまでの数々のリーガル・ミステリーから、ポリティカル・ノヴェルの書き手へと変貌を遂げたパタースンを読むことができる。
テーマはアメリカ大統領選挙共和党大統領候補者を決める予備選挙。政党は違うがまだ記憶に新しいオバマクリントンの激しい闘いを彷彿させて、興味深く読んだ。コーリー・グレイスは湾岸戦争の英雄として叙勲された。そして政界に転出して30才でオハイオ州上院議員となる。13年後、彼は共和党の大統領候補として予備選に参戦することになる。対立候補は党の院内総務をつとめる“本命”のベテラン上院議員マロッタとキリスト教右派層の支持を集めるテレビ伝道師クリスティ。そのほか3人の州知事も候補者だが、物語はおもにグレイス、マロッタ、クリスティの3人に焦点が
当てられる。
人種差別、テロへの対処、イラクの今後、同性愛者の権利、人工中絶の是非、そして私たち日本人にとっては難解なキリスト教原理主義など、争点はあるものの、メインはそれぞれの陣営の選挙参謀を中心にした党の候補者になるための権謀術数である。特にマロッタ陣営はカネや当選後の地位をちらつかせたり、相手候補を誹謗中傷
したりしてなりふり構わぬ票集めをはかり、選挙の“裏”の実態は想像以上に
生々しい。そんななかでグレイスは、党の綱領より自らの信念を頑固なまでに
貫き通し、熾烈な選挙戦を闘ってゆく。
これだけでも臨場感抜群な上に、湾岸戦争時に戦友を死なせてしまったことや過去の弟の自殺問題をトラウマに抱える姿、黒人の女優レキシー・ハートとのロマンスが
ちりばめられ、グレイスをひとりの悩める男として描くことにより、ただでさえ興味深く
関心を引く”選挙戦”という物語のなかに、より一層人間味をおびた深みと味わいを
与えている。
はたしてグレイスは選挙に勝つのか負けるのか・・・。物語は思いもかけない結末を
迎える。本書は、これがフィクションかと思わせるくらい、思わず手に汗握って読み
耽ってしまうほどの力作である。