読書記録23

wakaba-mark2010-03-28

ゴールド・コースト〈上〉

ゴールド・コースト〈上〉

ゴールド・コースト〈下〉

ゴールド・コースト〈下〉

’92年、「このミステリーがすごい!」海外編で第7位にランクインしたネルソン・デミルの大作。舞台はタイトルどおりの“ゴールド・コースト”であるが、有名なオーストラリアの観光地ではない。アメリカはニューヨーク州ロングアイランドのうち、ニューヨーク市に隣接するナッソー郡の北海岸を指す俗称である。ここは大金持ちの超弩級の高級邸宅が建ちならんでいる。
物語はそんな大邸宅のひとつに住む‘わたし’ことジョン・サッターの隣にマフィアの
ドンであるフランク・ベラローサが引っ越してきたことから始まる。それから善良なる
市民にして有能な弁護士である‘わたし’は、精神的、経済的、職業上、社交上の激烈な変化を体験し、また結婚生活も思いがけない局面を迎える。やがて訪れる悲劇的な結末。
本書は、‘わたし’とベラローサというまったく違う世界に生きる者の対比と両者の奇妙な感情の交流を、一人称で、時にはユーモラスに、時にはシニカルに、そしてシリアスに描いているが、‘わたし’の軽妙な語り口、そのウィット、ペーソス、ユニークな夫婦間の性生活のやりとり、そして登場人物たちの会話の冴えが大きな読みどころである。
しかしこの物語のメインテーマはかつての超大国アメリカの’90年前後の衰退ぶりであろう。何代にもわたって栄華を誇ってきた大富豪たちも昔日の暮らしは望むべくも
ない。ゴールド・コーストの荘園的大邸宅も人手に渡り、近代的分譲住宅となるのだ。そんな町の変貌の象徴がマフィアのドンなのである。
本書は、骨太な軍事ものやスパイもの、スケールの大きなテロ事件ものなどを書くことで有名なあのネルソン・デミルが、「こんな小説も書けるんだぞ」と打って出た異色作
である。