読書記録24

血の収穫 (創元推理文庫 130-1)

血の収穫 (創元推理文庫 130-1)

“私立探偵小説の始祖”、“ハードボイルドの創始者”といわれるダシール・ハメット
デビュー長編。大衆向けのパルプマガジン『ブラック・マスク』に1927年から連載
され、1929年に単行本化された。
サンフランシスコの「コンチネンタル探偵社」の探偵である主人公は、小切手を同封
した事件依頼の手紙を受け取り、ある鉱山町に出かけたが、入れ違いに依頼人
射殺される。利権と汚職と街のボスたちの縄張り争いに巻き込まれた彼は、街の顔役のみならず、警察署長や親しくなった高級娼婦までも含めて、巻頭の主な登場人物
たちのほとんどが殺されるといった、血で血を争う抗争の真っ只中であくまでも非情で利己的に振る舞う。
そこでは従来の奇想天外なトリックを弄する謎解きパズラーでは決して見ることの
できなかった“リアルで血の通った”人間たちを、もっぱら行動の面から目の当たりに
することができる。
また、もともとが連載ものであっただけに、やま場が随所にあって、残忍で殺伐な事件がこれでもかと起こり、それぞれの犯人も比較的早く判明する。読者は最後まで
待たされることなく、物語を楽しむことができるのだ。
本書の一人称叙述は、天才的推理能力非凡な探偵ではなく、非情・利己的・好色で、自己の信念を固く守り通し、しかも行動は敏速かつ凶暴な私立探偵をあらわしている。
低級なパルプマガジン出身とはいえ、ミステリー興味と心理的性格描写で、現代人
というかその時代に生きる人間を的確に把握している点で、ミステリーの世界に
革新的な作風をもたらした意味は大きく、低俗な読み物としてではなく本書が今なお
ハードボイルドの古典として読み継がれているのもうなずける。