読書記録25

wakaba-mark2010-04-03

マルタの鷹 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

マルタの鷹 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書は大衆向けのパルプマガジン『ブラック・マスク』に1929年から連載され、
1930年に単行本化された、“ハードボイルドの創始者ダシール・ハメットの代表作
である。やや固さが残り、残忍な殺人がてんこ盛りだったデビュー長編『血の収穫』に比べると、本書は荒っぽくて俗っぽいながらも、ずいぶんこなれており、三人称で叙述される主人公の行動もスマートであるように思われる。
私立探偵サムがその事件を引き受けるやいなや、たちまち2件の殺人が発生する。
発端となった謎の女、そのあとを追って地中海から来た男、ギャング一味の暗躍・・・
その昔マルタ島の騎士団がスペイン皇帝に献上した純金の「鷹の像」をめぐる
血みどろの争奪戦。
お宝をめぐる熾烈な駆け引きの要素も併せ持つ本書は、徹底して心理描写と説明を排した簡潔な文体で構成され、登場人物が今何を考えているのか、どうしてそうするのかを地の文で明かされない。一癖も二癖もある登場人物たちともあいまって、やや読者を突き放したつくりになっている。本格ミステリーの読者に、大きなカルチャー
ショックを与えた。
「ミステリーの歴史を通じて、最高の地位を要求できる傑作」と評される不朽の古典的正統派ハードボイルドの名作である。
本書でハメットは、行動によって始まり、行動によって語る、タフで、クールで、非情な
私立探偵像を確立した。そして、アメリカのこの正統派ハードボイルド私立探偵の系譜は、レイモンド・チャンドラーフィリップ・マーロウ、続いてロス・マクドナルドリュウ
・アーチャーへと受け継がれてゆく。