読書記録32

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

『犬の力』で’09年、「このミステリーがすごい!」海外編で堂々第1位に輝いた、
ドン・ウィンズロウの’91年のデビュー作。
新人作家の初登場作品ながら、’94年、「このミステリーがすごい!」海外編で第2位にランクインしている。
『犬の力』の重厚なサーガとは異なり、天性の機転のよさが光る、若い私立探偵
ニールを主人公にした、オフビートな味わいの軽快なハードボイルドである。
ニールは、ヤク中で売春婦の母親を持ち、父親を知らない、いわばニューヨークの
“ストリート・キッズ”だったが、才能を見出され、少年の頃からプロの探偵から稼業の
イロハを教え込まれ、いまや立派な、英文学を研究する大学院生兼私立探偵組織
<朋友会>のナンバー1の探偵だ。
時は1976年5月、彼は、来る8月の民主党全国大会で副大統領候補に推されることになっている上院議員から、行方不明の17才の娘探しを依頼される。ニールは、彼女の元同級生の目撃証言をもとにロンドンに向かう。ここに、夏のロンドンを舞台にした、決して品行方正とはいえない娘をめぐっての、ワルとの駆け引きが始まる。
それは、ニールにとって、ナイーブな心を、減らず口の陰に隠してはたらく長く切ない夏となった。
少年の頃の探偵修行のエピソードの数々、トラウマとなって胸に残る探偵となってからの失敗。暑いロンドンでの張り込みの日々などを盛り込んで、メインのストーリーは
展開する。そして胸のすくラスト。
本書は、文庫にして508ページに及ぶ長編だが、新人時代のウィンズロウの瑞々しくテンポのよい、軽妙洒脱な筆さばきと、東江一紀(あがりえかずき)の名訳とが
あいまって、ニール青年のひと夏の活躍をサクサクと一気読みで楽しむことができる。