読書記録36

赤い森

赤い森

祥伝社創立40周年記念作品」と銘打たれた本書は、“叙述ミステリーの第一人者”“語りの魔術師”折原一の48番目の単行本である。
迷ったら生きては出られない「樹海」を舞台にしており、祥伝社で過去に発表された『樹海伝説』(’02年)、『鬼頭家の惨劇』(’03年)に、新たに書き下ろした『赤い森』を加え、加筆・訂正がほどこされている。
『樹海伝説』『鬼頭家の惨劇』が第一話、第二話で収録されていて、私にとっては再読になるのだが、それぞれが一応完結した物語になっており、それぞれが7、8年前の
物語なので、詳細をおぼえていないことと、さらに第三話の、今回書き下ろしの
『赤い森』へとつながるように加筆・訂正されているので、まるで初読の様に一冊で
三度おいしい「折原ワールド」を楽しむことができた。
短い章立てで、フォントと視点が違う独白が挿入されていたり、袋とじの仕掛けが
あったり、同じような記述が繰り返される「折原スタイル」は、まさにスリルを増幅
させる。
過去の殺人事件と、謎めいた伝説、禍々しい樹海の恐怖、黒幕とも言える民宿の
主人、過去と現在が激しく交錯される展開。それぞれの物語の結末にさらに謎の余韻を残す本書は、細かい正誤性をものともしない独特のサスペンスをかもしだしていて、折原ファンにとってはこたえられない、一気読み必至のホラー・エンターテインメントの逸品といえる。