読書記録41

英国グラスゴーの無名の一教師だったアリステア・マクリーンを、一躍世界的な
ベストセラー作家に変えてしまった彼のデビュー作である。
時は1942年か43年。独ソ開戦に際してソ連に軍事援助物資を輸送する船団を護衛するため、英国の老朽巡洋艦ユリシーズ号は、重い病をおして艦橋に立つヴァレリー艦長のもと、疲労困憊の730名あまりの乗組員を乗せて、英国北部のオークニー
諸島のスカパ・フローを出航する。めざすは北極海を隔てたソ連不凍港
ムルマンスクである。しかし、7日間にわたってとうてい切り抜けるとことは不可能と
思われるような危機が、次々とユリシーズ号に、乗組員たちに襲いかかる。
零下30度を超える厳寒の雪嵐の猛威、ドイツ軍の敷設した機雷、Uボートの魚雷、
そして戦闘爆撃機による容赦ない攻撃、この想像をはるかに超える戦時下の苛酷な状況の中で、乗組員はひとり、またひとりと命を失い、32隻でソ連に向かって港を出た船団FR77も一隻、また一隻と沈没して最後には僅か7隻。「凄まじい」、「凄絶」、
「呆然」、「轟然」、マクリーンの筆はとぎれることなく、高々とうねる荒波のごとくページを塗りつぶしてゆく。とうていハッピーエンドは望むべくもない。
また、忘れてはならないのが食糧と睡眠もままならないユリシーズ号乗組員たちの
英国海軍軍人としての矜持とジョンブル魂、そして友情と連帯である。
私は物語の終盤の戦闘シーンでシチュエーションは異なれど、福井晴敏の大作
終戦のローレライ』を思い起こした。
ともあれ本書は、55年前に書かれたのが信じられないほど、リアリティと悲壮感に
満ちた第二時大戦時英国海洋冒険小説の不朽の名作である。