読書記録42

wakaba-mark2010-05-18

グレゴリー・ペックアンソニー・クインら当時を代表するスターが出演する映画にも
なった、その後の活躍から“イギリス冒険小説の巨星”と称されるアリステア
・マクリーンのデビュー第二作。早川書房の『ミステリ・マガジン』のアンケートをもとに
’92年に刊行された『冒険・スパイ小説ハンドブック』において、「冒険小説ジャンル」
では第5位にランクインしている。
「ナヴァロンの巨砲を破壊せよ!」それはトルコ沖に横たわり、9インチの巨大砲門を
備えたナチスの難攻不落の要塞だった。ドイツ軍の猛攻撃の前にその地域のすべてを失った連合軍にとってただひとつ残った近隣のケロス島にとどまる1200名の将兵を救うための指令だった。英国軍は、秘密裏に上陸・潜入して破壊する作戦を取る。
イムリミットはわずかに3日。
特命を受けたのは、ニュージーランドの世界的登山家で、英国陸軍大尉のキース
・マロリー。そう、時代は違えど、「なぜ、あなたはエベレストを目指すのか」と問われて「そこに山があるから」と答えたという逸話を持つ英国の登山家ジョージ・マロリーと
同姓の男。彼ら5人の精鋭が老朽機帆船で島へ向かう。エーゲ海とはいえ11月の
雪嵐のなか、最も険しい南の断崖から夜陰にまぎれて登攀上陸するのだが、早くも
ひとりの重傷者を出す。大自然の猛威に加え、駐留するドイツ軍との闘い。
一度は捕まり捕縛されるが、彼らは島の反ナチのギリシャ人の住人ふたりの力も
借りて、北部の要塞に迫る。
彼らは新兵器を携えた専門の破壊工作員でもなく、超人的なスパイエージェントでも
ないので、次々に襲い掛かる、到底切り抜けることは不可能と思われる困難に自力で立ち向かってゆかなければならない。それらのスリルに満ちた攻防が本書の最大の
読みどころである。
デビュー作の『女王陛下のユリシーズ号』ほどのスケールと悲壮感、荒々しさはない
ものの、彼らの自らの任務にかける勇敢さ、執念は凄まじいものがある。まさに映画
でも有名な、第二次大戦時冒険小説の名品である。